日々を紡ぐ

「あ、かあちゃん、白い花が咲いとう！」
指の先をたどって見ると、家の庭にある山茶花の木に、白い花が咲いている。

　今日は雨。
毎日グングンと成長している植物にとっては恵みの雨で、雨粒をうけた木々も花もしっとりと喜びに輝いている。

　ここへ来て、落ち着いてからは、楽器の練習はなるべく欠かさないように、練習嫌いの自分にしては珍しくがんばっている。こんなに自分の時間があるのは本当に今しかないかもしれないと思うとやれるだけやっとこう、という意欲も出てくる・・。

　ところで、今まで何度も、気軽に持ち運べて、どこでも演奏ができるハープ、フルートやギターのように、持ち運びのできるのがあればいいな・・と思ったことがあったが、調べてみるとかなり高額だった。
　人前で演奏しても、気軽に始められますよ・・とは言いにくいものがあるので、やってみたいのだけど、やっぱり無理ね・・そういう残念そうな話も何度も聞いてきた。ハープを身近な楽器にできたら、どんなにいいだろう。そうは思いつつ、なかなか難しい現実があった。　

シドニーに来て、これまたそこに至るまで色々な経緯があったのだが、とにかく、あるホームページでラップハープが手作りできるということを知り、エキサイトしてしまった。難しいかもしれないが、手作りの意味と、価格の問題を考えると、これは、good かもしれない！
　早速アメリカのメーカーにそのキットを取り寄せるとどのくらい時間とコストがかかるのか聞いてみたところ（質問・依頼・注文など難しい文章は全て Haruがしてくれるのだが）そこから返事が来て、オーストラリアでこのキットを取り扱っている人がいるので、送料他を考えると、そっちに注文した方が良 いですよ、とのことだった。願ったり叶ったり！である。

　今度は教えてもらったオーストラリアの方に連絡してみると、これまた幸運なことに、彼はハープのミュージックセラピストで、以前自分が組み立てて、今は使っていないものがあるので、安く譲ってあげますよ・・との話！
　なんということ！本当にありがたい話だったが、それでも諸事情を話して少し値引きをしてもらえないかとお願いしたら、OKとのことだった。

　届いた物は、優美というよりも、がっしりとしたシンプルな姿、だが、そのおかげで音量もかなりあり、思っていた通りのものだった。
Limerick Harp、日本の販売店では『吟遊ハープ』と銘打ってある。・・幸せなイマジネーションは限りなく広がっていく・・。
勿論、西洋の文化のできあいのイメージをそのまま飲み込むよりも、自分なりのものにしていきたい。　
　そういえば『ムーミン』の中に出てくるスナフキン、彼はハーモニカを持ち歩き、旅をしていたが、ある時、何をしているなかという質問に
「なくしたメロディーを探しているんだ♪」
と答えていた。

　創ること、それが何よりも好きだ。母ともなれば、毎日の食事を作る、住みよい空間を作る、子ども達が安心できる場を作る・・日常的に創作の場はいろいろとあるのだが、音で空気を創る・・それが自分の中のひとつの大きな夢だ。旅をしながら（実際に動くのではなく心の旅、というものであっても）好きなように音楽を創り、自由に奏でてよいというこのハープは自分にとって間違いなくオーストラリアへ来た最大の収穫のひとつになる。　

　人生は自分で創っていく物語、もしくは一針ずつ紡いでいく織物のようなものだと思う。勿論思い通りにはならないことだらけだ。指は痛くなるし、針や糸は思うようなものが手に入らないし、入ったとしても、今度は自分の力のなさに愕然とする。そして、いつでも私達は限りなくいろいろなものに拘束されている。
　それでも、どんな時でも、夢を見たり、何かを願ったり、何かを創り出したり、依然としてその可能性はある。
　転んだり、つまづいたり、大きく振り回されたり、失敗したりしながらも、自分のためだけでなく、そして、少しでも可能性があることならば、その過程にいることはきっと楽しめるはずである。

　英語も、楽器も、上手、下手よりもそれで何を言いたいのか、そしてそれを誰に伝えるのか・・に本当の意味があるのだと思う。　　
　これから、このLimerick Harpと一緒に、何を紡ぎ出していこうか・・。