世界の中心で、何をさけぶ?

 今日の目的はウルル登山。
 早朝5時のモーニングコールで起床。6時15分のバスで出発して、まず、ウルルの日の出を見に行く。
天気は快晴で、気温は1℃くらい。凍えそうなほどの寒さに、昨日用意したチキンヌードルを食べる。お湯を用意しておくので、とジャッキーが勧めてくれていたが、カップヌードルのおかげで、体が温まった。日の出と、太陽の光で朱色、オレンジ、そして金色に変化していくウルルの姿は、その寒さをも吹き飛ばすものだった。
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 朝日が昇り、もう一度、バスに乗って、今度は、いよいよそのウルルへと向かう。

 間近で見ると、圧倒されるほど大きい。高さ348メーター(東京タワーよりも高い)の一枚岩だ。 
 アボリジニの聖地だということで、申し訳ない気もするが、とりあえず彼ら(原住民たち)の許容範囲内なのだと、自分を納得させつつ、いざ!
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cimg1103r  まず、金属の杭チェーンが張ってあり、それを頼りに登っていくことになる。とても急な勾配なので、チェーンを持っていないと、非常に危ない。ただ、そのチェーンが膝丈ほどの低い位置に張ってあるので、腰をかがめないといけない。これがきつい。息は切れるし、足は痛むし・・時々傾斜のゆるい場所で後ろ向きに座って休まないと、とてもじゃないが登り続けられない。

 休憩をしようとして後ろを向くと、転がり落ちていきそうな錯覚に陥る。
不覚にも思い出してしまったが、自分は、足場の狭いところでは、かなり高所恐怖症の気があるのだった・・。icon-ase 
 今頃、そんなことを・・思い出さなかったことにして、意識の深ーい底の方まで、沈めてしまおう。無心の境地!!
世界の中心で、(残念ながら愛ではなく)恐怖に小さく叫びながら、それでも上へ、上へ、と登っていく。

 男の子たちは、とうの昔に、どこか見えないくらい遠くへ行ってしまった。若い・・。 
 Aiはどうかと言うと、ゆっくりではあるが、やっぱり確実にその歩を進めている。とうとう彼女にも体力で追いつかなくなってしまったようだ。もう一度言うけど、若い・・。 
 とにかく、ここまで来て頂上まで登らないわけにはいかない。オーストラリアでの一生の思い出に、無念を残したくはない。無心で登るのみである。
「そこが頂上かって思ったら、まだまだ上があるっちゃんね。」
というAiに
「それが、人生っていうものよ。」
なんてカッコつけながら、実は、リタイア寸前、ギリギリ状態。 

 途中降りてくる人が、時に挨拶を交わしてくれる。笑顔を顔に貼りつけつつ、挨拶に答える。
「とっても大変!」
時には、弱音も吐いてしまう。すると、私のため息を聞きつけた、下山中の一人の女性が、
「このロープの所が一番大変だけど、もうあと少しよ。それからは、ずっとラクになるから!」
と教えてくれた。
「えっ?!・・そうなんですか?ありがとう!」
と単純な私は、その一言に俄然、元気を取り戻す。そして・・とうとうチェーンがなくなり、本当に、今度は、少しゆるやかな坂道になってきた。

 「もう少しだよね!」
とAiやHaruと励まし合う。起伏のある道、ひとりがやっと通れる細い道・・道しるべの白線の上を辿ってとにかく登る。
 実際はそれから、まだまだかなり距離はあったのだが、腰をかがめ、足先を30℃くらい上げ続けての登山に比べると、天と地の違い。ロープなどに頼らず一人で立って歩ける!人類、直立2本足歩行の幸せ!
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 そうこうする間に、太陽は昇って、遮る物のない場所で気温はすぐに20℃近くまで上がってきた。ただ、時折強い風が吹きつけてくる。帽子などかぶっていられないくらいだ。風に煽られながら、それでも歩き続けると、Shouが迎えにやって来た。
「Taikiは穴の中で待っとおけん、大丈夫。もうちょっとやけん!」
 ふと気づけば、ここでも博多弁の家族だった。それはともかく、頂上まで行った若者がそう言うのだから、ゴールはきっと間近なのだ。再び登る、登り続ける・・そして・・

「Well Done!(よく、がんばってきたね!)」 
 シニアの女性に向かって、ねぎらいの声をかけている人がいる。・・ということは?頂上だ!!Taikiも穴の中から出て来て(風をよけて安全な場所にいたらしい)、合流。きっと、乗り物であっという間に登ったのではなく、一歩一歩自分たちの足で歩いてきたから、一層感動を味わえたのだと思う。きっと、この瞬間は、家族にとってのかけがえのない思い出になることだろう。cimg1084r3r_02頂上からの景色。今日も又、快晴。

 頂上には、方位と周りの景色を描いてあるオブジェがあった。このW(West 西)の文字を逆から見ながら、白人の若者、
「Where is Mc Donald?(マクドナルド、どこ?)」
と叫んで、周りを笑わせる。本当に、彼らのユーモアには、感嘆してしまう。
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 ここで、ひとつどうしてもしなければならない事があった。それはTaikiの髪の毛の記念撮影。
(写真は本人の希望により、一部修正しております・・icon-mrgreenafro
シドニーへ来てから、アフロになりたいから、と言って、どうしても髪の毛を切らせようとしなかった彼だが、この地へ来る前に、
「ウルルでアフロを撮影したら、髪の毛をきる!」
と宣言していたのだ。
「よっしゃ!アフロ撮影!!」
一体、なぜ、そんなにアフロになりたいのか、一体なぜ、ウルルでのアフロ撮影が彼の転機になるのか・・謎である。
これは、幼い頃、一時期「大きなカメさ
ん!」と呼ばないとShouが返事をしなかったり、右と左で違う靴下を、どうしてもはきたがったり、Aiが、降っても晴れても、いつも傘を抱えて長靴をはいて出歩いていた時期があったり、それと同じような事なのだろう。そんな気持ちなのだから、しかたがない。
 とにかく、これでシドニーに帰ってからは、アフロ志願断念!という事なのだから、めでたい限りだ!!pen0-27

 下りも、後半は急な坂なので、結構きつかったが、登りほどではない。ただ膝はガクガクだった。

ふもとまで降ると、少し休憩して、ウルルの周りを少し歩いた。ダイナミックな岩の造形、洞穴、そしてアボリジニの描いた壁画などがあって、興味深かった。cimg1123rcimg1115r

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 スニーカーは、すっかりオレンジ色に染まっている。
きっと、この地に来る事は二度とないが、この、世界で一番大きな一枚岩は、人間の小ささ、弱さ、そして自然の偉大さ、不思議さ、言葉にできない様々な感動をあたえてくれた。

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