♧『おかあさんの目』
『おかあさんの目』 (あまん きみこ 作 / くろい けん 絵 あかね書房)
それは、わたしが三つか四つくらいのこと。
おかあさんのひざの上で、何かをお話ししていた時、その黒い瞳の中に、小さな小さな自分を見つけたのです。
なんとふしぎだったことでしょう。こんな小さなひとみの中に、わたしが、ちゃんとはいっているー。
むちゅうになって、わたしは、おかあさんのひとみをのぞきこみました。
顔をよこにしてみたり、ななめにしてみたり、手をふってみたりしました。
その瞳の中には、たたみや、カーテンや、木々・・・そこから見える、たくさんのものが映っていました。
「じゃあ、よおく見ててごらん。じいっと、息をつめてね。」
お母さんに言われるままに、見つめていると、なんと、その瞳の中に、映っていたのは・・・ 山、白い船、そして、広い海!
急いで振り向いても、そんな景色、そこにはないのに・・・。
すると、お母さんはこう言ったのです。
「せつこも、うつくしいものに出会ったら、いっしょうけんめい見つめなさい。
見つめると、それが目ににじんで、ちゃあんと心にすみつくのよ。
そうすると、いつだって目のまえに見えるようになるわ。
だって、いまおかあさんのひとみにうつっていたでしょう?」
わたしには、そのとき、そのことばの意味も、すこししかわかりませんでした。
けれど、うつくしいものに出会うたびに、いつもわたしは、おかあさんの目をおもいだしました。
・ ・ ・ 黒井健さんの、柔らかく透明感のある絵が、お話に寄り添った、一篇の詩のような一冊。
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Posted:
7月 6, 2012 金曜日 at 12:12 pm